(230)ムーミンお誕生会と風船【フィンランドムーミン便り】

9月のクルーヴハル
この時期にこんなに色とりどりの花が咲いてるなんて。何度となくこんな言葉を交わした今年の9月のはじまり。9月は風が強くなり海の波が高くなる時期でもある。トーベ・ヤンソンが夏を過ごしたクルーヴハル島に上陸できる確率は、ぐっと低くなる。海は午前中のほうが凪いでいると言われていたのは昔のこと。最近の海は気まぐれだ。案の定、私がクルーヴハルに行った日は、午後のほうが海が穏やかだった。夏になるとサマーハウスで過ごす人たちで人口が10倍以上に膨れ上がる群島ペッリンゲは、9月に入るとほっと一息ついたように静かで、森の地面にさしこむ木漏れ日もなんだかやさしかった。
夏休みシーズンが終わり、ヘルシンキには日常の活気が戻った。私は春にムーミンマグのイベントで知り合った方のお宅に伺うことになった。コレクションの一部を見せていただくのだ。ご自宅は黒を基調に落ち着いており、ぱっと見たところムーミンは見当たらなかった。クールな北欧デザインでまとめられたリビングの片隅に、そこだけ印象の異なる160年もののキャビネットがあった。人懐こさというか温もりが感じられる木製のキャビネットで、扉を開くと、ムーミンマグや50年代に作られたムーミンの人形、最近のフィギュアなどがずらりと並んでいた。疲れたときに扉を左右にぱっと開けると、目の前に広がるムーミンのグッズが癒してくれるのだと話してくれた。
ムーミンのグッズを買うようになったのは23年前、産休に入ったときだった。彼女が集めたムーミングッズの数々は、息子さんが生きてきた時間でもある。その時間が彼女の癒しを育んできた。
彼女がムーミングッズを集め始めた頃というのは、私がときどきムーミンショップで店番をしていた頃だ。あの頃ショップでは、子どものお誕生会をムーミンのテーマでしたいのだけれどという相談や、担任の先生にアラビアのムーミンマグをプレゼントするつもりでなんていう話をよく聞いた。彼女は息子の3歳の誕生会がまさにムーミンをテーマにしたものだったと教えてくれた。小さな保育園で19人しかいないからと全員を招くことにした。紙皿や紙ナプキン、ありとあらゆるものをムーミンにした。ケーキももちろんムーミンだ。当時は誕生会に来てくれたお友だちにお礼のプレゼントを用意しておかなくてはならず、あれこれ悩んだ末にヘリウムガスで宙に浮かぶ風船をたくさん用意し誕生会の部屋を飾りつつ、これをプレゼントとして皆に持ち帰ってもらうことにしたという。さらにサプライズでムーミントロールとリトルミイがやってきてくれたのだという。ちょっと顔を出すだけかと思ったら、一緒に踊ったり遊んだりしてくれた。子どもたちが喜んだのはもちろん、大人たちも幸せだったという。
賑やかなお誕生会が終わり、一人また一人とムーミンの風船を手に、子どもたちはそれぞれの家に帰っていった。家の中を華やかに飾った風船はすっかりなくなり、そして静かになった。

トーベ・ヤンソンが銀行の依頼で作った子ども向けの冊子には、最後の見開きページに言葉遊びのクイズもついていた。これが難しい。
森下圭子